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「龍時」を読み終えて

ここ2週間はずっと通勤時が楽しかった。ずっと「龍時」の世界に浸れていたから。3冊一気に読み終えてしまったという感じである。

「龍時」は人気脚本家であり小説家だった野沢尚氏の書いたサッカー小説である。現在は「ワールドサッカーキング」にて漫画が連載中。実は「龍時」を知ったのはこの漫画の方が先。絵柄が好みでなはなかったので一度立ち読みしてそれっきりだったが、あるときネットで「龍時」の原作が文庫本になっているのを知って読もうと思った。

無名の高校生だった志野リュウジがU-17のスペイン代表との親善試合に出場、偶然スペインサッカーの関係者の目にとまり、スペインに渡り、苦難の果てにリーガデビューを果たす・・・というあらすじだけ追うとよくできた少年マンガのようであるが、プレーを丁寧に力強く、卓越した描写とドラマのように脳裏に思い描ける家族関係や人間関係、やはりプロの小説家のなせる技だと思った。時には野沢氏の日本サッカーに対する評論や思想も垣間見られるところが、文章のいいところ。ある意味小説に形を変えた野沢氏のサッカー愛が語られてるようにも思えた。

小説の中ではリュウジはまだ十代だが、サッカーの経験値でいうと、日本の十代のサッカー選手より精神的には強くはるかに大人である。しかも異常な負けず嫌いでいい意味でエゴイスティックな部分もある。比較的おとなしいと言われいる若い日本人選手にはいないタイプ。というか野沢氏なりの大人しい若手選手に対するアンチテーゼなキャラクターなのかもしれない(最近はそんな大人しくない選手もいるけど)。

リュウジに多大な影響を与えるのは父の礼作。職業はライターで、小説の中では守護霊のようにリュウジの活躍を見守り、時には助言する。野沢氏が自分自身を投影させているような気がした。この父とリュウジの関係がどうなっていくのかずっと気になっていたけど・・・

他にも恋人マリアやともに同じアジア人としてリーガ・エスパニューラで戦う韓国人選手のパク、U-23代表でのライバル梶、U-23代表監督平義など気になる登場人物は多いが、作者が自ら命を絶ったことでぷっりと物語は終わってしまった。

「龍時03-04」の最後の部分を地下鉄の電車の中で読もうとしたとき、女性週刊誌のつり革広告が偶然目に飛び込んだ。野沢氏の残された妻の取材の記事が載ってるようだった。会社の帰りに立ち読みしたが、野沢氏には男と女のお子さんがいるようだ。リュウジと同じ兄弟構成(兄と妹)だった。野沢氏がなぜ亡くなったかは今だよくわからないが、やはり「龍時」が完結しないままに終わったのがとても残念であるし、寂しい。

「龍時」の中ではアテネ五輪のエピソードもあるが、85年生まれのリュウジと同じ世代の選手が中心の北京五輪代表が明日今年初めての親善試合を行う。現実はフィクションを超えられるか?多分それがこの小説のファンになった者のひそかな楽しみである。
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by chloe7513 | 2007-02-20 21:36 | etc.